無人駅

自宅のポストに一通の便箋が届いた
黒い封筒 送り主は書かれていない

御迎えに参りました
待ち合わせは最寄り駅の666番ホーム

中の手紙には手書きの文字でそう刻まれていた
不審には思った
しかしどこかで見たような文体
覚えのある文字
ぼんやりと記憶を辿る

心の隅から滲み広がる涙の色
波紋は脳を鈍麻させ意識は朦朧として行く
時の間 恍惚しきった私の脱け殻を垣間見た気がしたが意識は彼方へ


気づけば私は故郷の馴染みの駅にいた
1人呆然と立っている
飾り気のない真っ白な装束を装い 立っている
状況を理解を放棄したまま駅の構内へ入りホームへと向かう
構内は人気がなく深としていて
トコトコと靴と床の接触音だけが反響して静けさを際立たせる

古びた看板に666番ホームは表記されていない
でも多分私は行き先を知っている
何処へ向かえば良いのかを漠然と感じている
この一歩一歩に迷いは不要
そう思った


終に降り立ったのは1番ホームと2番ホームのちょうど真ん中
私は一人ぼっちで冷たい鉄の上に座り込んで虚ろに天の星粒を数え始める
白色の夜間照明は弱く細り点滅している
吹けば消えそうな命のようだ


見える限りの星を数え終えたが
まだ迎えは来ない
私は不意に立ち上がった
この線路は何処まで続いているのだろうとふと疑問に思った
私は細い鉄の上を歩く
両手でバランスをとりながら平均台を歩いてく
その先にあるものを知りたかった


つい夢中になって いつのまにか橋梁まで来てしまっていた
橋の下には河が流れ閑かにせせらいでいる
水面に三日月が揺らいで映る
私はその月明かりが欲しくなった
橋から身を乗り出し手を伸ばす

私はバランスを崩し重力に引っ張られて河に落っこちた