轟々と

風が荒れている
轟々とうねり鳴動する
障害物の総てを力で押し退け突き進む
窓を強く叩く音が部屋の中を占めて緊張を促す
外界のどよめきが気になり僕は恐る恐る窓に手を掛ける
窓縁はひんやりと冷たく室温との兼ね合いで水滴が疎らに付着していた
人差し指が悴む感覚を覚えるが構わず窓を開ける
矢張り冷気が顔をぶん殴る
髪が背後に踊り靡く
暫く目を瞑ったままその微かな痛みに浸っていた
風が轟々と庭木を揺さぶる
樹々は持ち前の撓りを活かして傾きながらも理不尽な暴力に耐えている
しかし落葉を迎えた葉の数々は容赦なく為す術もなく吹き消される
他にも音が聴こえる
夜間を疾る航空機が流れ星のように小さく光輝くのを見た
轟々と 風に似せたようにジェット音を夜空に響かす
音と光 各々がマイペースに遠退いて行く
連ねるかのように救急車のサイレン
鼓膜に印刷されて離れないこの奇妙な不協和音
遠くでバイクのエンジン音
元気に盛った地元の兄ちゃんが意気揚々と爆音をたてる

夜は音が良く聴こえる
冬は音が良く響く
遠くの音が夜風に乗せられて冷気を伝って
何かを訴えかけるでもなく部屋に届く
窓を開けるだけでそれだけで聴こえてくる
遠くまで全部全部
その全てが意味を伴わない無機質なもので
そういったものにこそ価値を見出してやりたいと僕は思うのです

夜風が運ぶプレゼント
窓辺に届くプレゼント
風はまだ轟々と