落陽と放物線

焦れるような強い日差しが、頬を西から紅く染める。
ぼくは近くの公園に、サッカーをしに出かけていた。
サッカーコートの4分の1くらいの広さの園内には、赤い服を着た野球少年が4人、父を引っ張ってきたのであろう兄妹の3人がいた。
ぼくはできるだけ邪魔にならないような場所で、軽くボールを蹴りはじめた。
ボールの感触は昔とあまり変わらない。
土のフィールドにはすこし違和感があるだろうか。
おっと忘れていた、とストレッチと水分補給を挟みながら、のんびりボールを蹴り続ける。


やがて野球少年たちは帰って、それからまたしばらく経った頃に、兄妹の兄の方が空を指差して、「ひこうき」と言った。
ぼくはその声につられて空を見上げる。
ベーシックな空色にうすく橙がかかる天上には、歪みのない一筋の放物線が引かれていた。
よく見ると白線の最前線には、ちいさなプラモデルのような飛行機がとんでいた。
空を別つ境界線を描きながら、あいつはどこに向かっている?
ぼくには、遠くの山の方へ落下しているように見えた。
それが地球の丸いせいだと今のぼくは知っているし、落ちるのはせいぜいドラマか映画の中だけだとわかっている。
それでも、夕陽と飛行機のどちらが先に、地平線の向こうに落ちていくのかを、見届けられずにはいられなかった。

数週間後に自分もこの空を跨ぐ。
そう思うとなんだか、幼少期におもしろがって回した地球儀の上を、裸足で駆けているような気持ちにもなった。


兄妹はもう「ひこうき」に興味をなくし、プラスチックの野球バット握って、父の投げるボールに構えていた。
ぼくももうすこしボールを蹴ることにした。
夕陽が沈んだら帰ろう。
そう思った。