煙突

「煙突」という言葉がふいに湧いてきて、気に入ったからなにか書こうかなと思った。

でも書くこともないし困った。
ありきたりな言葉ばかりがスムーズに出てくるのが、最近おもしろいのよね。



といったところで、ひとつ思い出した。



思い出すのは三月の、三月の…いつか。忘れちゃった。二月だったかも。
母の故郷である大分の国東半島に、母と一緒に車を運転して行った。そういえば運転免許をとった。これもおもしろかったから、今度書かないといけないね。
広島から山口県の徳山までは車で行って、港からはフェリーに乗って大分の国東まで行った。長崎鼻の近くの病院で療養中の祖母に会いに行くのが今回の目的だった。道中で、うつくしい海岸線や、きれいな積乱雲や、もうすこしで満開のひまわり畑に出会った。



病院につくと、病室の窓から手を振る祖母の姿がみえた。ずっと待っていたんだと思う。
祖母はまえ会ったときよりは元気そうだった。すこし安心した。でも年老いているのは確かだった。
病院の二階からは海が眺望でき、祖母は「海の満ち引きって不思議」と言っていた。昔、どこかで学んだ記憶があったけど、僕は明確には思い出せず、なんとなくの原理を教えてあげた。それでも祖母は、そうなの、と晴れた顔で微笑んでいた。こんなわずかな知識でも、慰めになるんだと思った。
大学で学べていることが羨ましいと祖母は言っていた。うちが子供の頃は、ほんとうに貧乏だったから、と。祖母は、がんばってね、と僕の手をやさしく握った。細くなった祖母の手はまだ温かかった。
戦時中に中国に連れていかれたことと、そこでの生活の話もしてくれた。話には、虫食いみたいにちょっとずつ穴が空いていたけど、伝えようとしてくれたことはわかった。
となりには母がいた。母は、祖母の昔からの姉妹みたいだった。



思い出したことはまだあるけど、また今度。