殄滅の唄

ある山の麓
まるで世界から乖離されたかのような僻地に 閑かに彳む小さな村
誰しもが気に留めることのなき小さな一点
しかし其処は今も昔も
この世界の終焉に最も近しい場所であることは確か


村には古来からの奇妙な仕来りが存在する
村落に隣る剣山の山頂に祀られている祠
村人達は百年に一度その祠へ出向き祭事を行う

百年に一度

その逃れられぬ運命の日が 今日であった


既に祠には人集りができていた
見渡す限り老人 高年層ばかり
皆々が北を向き地に膝を折る
先頭には一人の少女
齢は今日で丁度十八
嫋やかな黒髪を靡かせ凛々と立っている

若者はその少女だけ
彼女は百年に一度産まれると言われる巫女の末裔
左手の甲に紅く耀く宝玉の焱が その少女の哀しき運命の証だった
父も母も娘の悲哀募る後ろ姿を嘆き参列する


全員が集結し 静けさ漂う中
少女の第一声から儀式は始まった

冷気に染み込むような透き通った声が天を衝く
生気の脈絡の通った唄は遠くの山脈にぶつかって谺している
我々も続く
透明な唄声に様々な色の声が混ざり合う大地の鳴動
すると祠は共鳴したように眩い光を放つ
空間が荒ぶり 光は焦げるような熱を帯びて増すばかり
光は命を欲するように畝り蠢く


山の麓 村の中心
頂の放つ光輝を仰ぐ若者達が居た
皆々が涙を堪え 同じ唄を口遊む
敬意そして悲壮
運命の光は美しい
彼等は手を合わせその光に黙禱を捧げ
少女と自らの親が焼ける音を聴いた


軈て終焉の焱は総てを焼き尽くし
我々の唄は途切れた

光が徐々に弱まり 辺り一帯は収束に向かう
残ったのは空っぽだけ
消し飛んだ命だけだ




世界を滅ぼすに価するその温もりは
冷めた大地を暖め
極の氷海を溶かし世界を潤す

世界は今日も美しい

その傍で我々は消える

温もりは我等の命
潤いは少女の涙

命を賭した終焉の唄
総てを無に帰す運命の唄

我々はそれを

殄滅の唄 と呼ぶ