鍵と心

日記とは 日々を拾い集めるようなものだった
螢の輝きを逃さぬよう ガラス瓶に詰めるような
道端の変わった石ころを ポケットに忍ばせるような

毎日書かなくなった日から 僕の時間は指のあいだから溢れ落ち 足元にとけていった
それは水溜りみたいに ふとした晴れの日には蒸発してどこかへ飛んで消えていってしまった
後ろを振り返ると 足跡のような何かが残っているのだけ
定かには思い出せない閑散とした道のりばかりが 清々しいほどの青空と夏雲がきれいで
すこし寂しくなる

忘れるのが怖いのに それでも筆を取らないのは怠惰だと思う
忘れたことに気づいたとき 後になっていつもすこし悲しくなることはわかっているはずなのに
また後悔だ
後悔はあっても反省はない
それだから埃を被ってもなお 同じことを繰り返している

僕は
この先"どうありたいか" 以前に
自分が"どういう人間か"という現実を知り
絶望しなければならない
ひとときの意気込みは長くは続かない
残念だけど 僕はそういう人間だ
だから何度も何度も暗示をかけて
お前はたいした人間ではないと
それでも まだ目を背けてはならないと

自分が崩れ落ちる瞬間をこの目に焼き付け
それから彼がどうするかを見守ろう