この世界の片隅に

八月の暑い夏の季節
今日も特に変わりの無い一日が始まった

僕は窓から斜めに差す陽の光に晒され目を覚ます
朝食は麦ご飯に漬物 それに汁物
食べ終わると急いで支度をして家を出る
時刻は7時過ぎ
広島市内の学校に通うには電車に乗る必要がある
当たり前だけど電車に乗るにはお金が必要

やらかした
財布を家に忘れてしまった
取りに帰らないと と焦った直後
なんだか気が萎えてきた
吐いた溜め息と共に 今日は仮病で休んでしまおうという想いが込み上げてきた
まあ構わんだろう 学校くらい
それにこの後の行く当てもあった


町の端っこに一つ小さな山がある
僕はそこに向かった


山の頂上は既に賑わっていた
カンタとサキが真っ先に僕に気づいた
満面の笑みで胸元に突っ込んでくる
その後2人は急に落ち着き払い不思議そうに聞いてきた

にぃに 学校はどうしたん?

早速痛いところを突かれて狼狽える
仕方なく状況を説明すると2人は悪戯っ子の顔になる

わるいこ にぃに わるいこ

楽しそうに笑うもんだから僕もつられて笑ってしまう


先生は?

僕は気になっていたことを聞く

今日は先生は市内に行っとるよ

あぁ そうなんじゃ 残念

先生は居ないみたい
僕らが先生と呼ぶ人は昔からここで無償で授業をしてくれているおじさん
この山にはお金が無くて学校に行けない子達が集まる
年齢にはだいぶ幅があって家族みたいな関係
そして僕もここの出身


暫く時間を忘れて子供達と話をした
顔を出すのも久しかったから積もる話もある
そうやって時間をゆったりと満喫している最中
時計の針は8時を回っていた


東の空を見る
吸い込まれそうな青空
遠くに見える瀬戸内海
見下ろす街並み
燦々と降り止まぬ蝉時雨

今も昔も
この場所の時の流れは変わらない
学校を休んで良かったなと心の中で呟いた


その時


突如 ポンと光った地上の星

わあっ と驚嘆の声

眩い光が僕らを包み込む

様々な不安が頭をよぎった

眩暈が引き視界が明瞭になっていく

眼前にはもくもくと湧く巨大なキノコ雲

子供達は歓喜に騒いでいる


綺麗やねぇ
ウチ あんな大きな雲見たことない

横に居たサキが言う

カンタも初めて見る光景に好奇の目を輝かせている


あっちは市内か
先生 学校のみんな

あれは知ってる
知ってるけど
不安も心配もなんもかんも忘れてしまうような

鮮やかな蒼天に白い団塊

その景色はあまりにも あまりにも 美しすぎた

世界の片隅に 落ちた爆弾と見守るわたし