夏のつづき

昨晩は風がかなりつよかった
台風の所為だな
窓に打ちつけられる雨粒が槍のようにガラスを突き破るのではないか不安になった
不安になりすぎて凡ゆる方面に遺書を残そうか慌てふためいた

・この頃は雨によく降られて外出意欲が悉く鎮火されています
・それでも学校に行く僕はえらいです
・いやな気分です

しかしそんな夜を越え なんてことない顔して朝がやってきやがったのがひどく滑稽だった
あふれんばかりの快晴が笑ける
なので僕はいつもどおり学校へ向かうことにした


着いてみると学校は1限と2限の授業が休みになっていた
朝はやくから家を出た自分は損をした心模様
空はバカにしたみたいな晴れ模様
しょーもなっ あっかんべーっだ

同じように授業がなくなった友達と合流して体育館へ向かった
運動でもしようやって
レーニングルームで筋トレをした
自分も友達も細身だから似合ってなかった
しかし健康的でよいと思う

それから外でサッカーをした
がらんとしたひろいグラウンド
てきとうにボールを蹴って走り回る
休講になった時間はほんとうに誰もいない
こぞって大声出しながらはしゃいでいた
そういや都会には大声を出せる場所ってないなぁってそんな話もした

のんびりと時間が忘れられていくのを
影が無駄にのびちぢみするのを
僕らはみていた
いつも毎日このように生きてられたらよいよいナ〜
やっぱ無理かなぁと笑い合い
わたしはやるぞ!と声を高らかに
どうでもいいけどあれは飛行機雲だ
指をさしてみよう
台風のち快晴
夏のような太陽がにらむ

今日はたのしかったな
どこかノスタルジックな一日だった
毎日のそとで息継ぎができた
台風のおかげだ

笑顔

笑顔の練習をしている
洗面所の鏡の前でひとり
心が笑えない日も欠かさずに

鏡には引き攣った皺くちゃな顔が 涙でぼやけて映るけど
それでも笑う


笑顔が必要な瞬間ってのは必ずある
その一瞬を笑えなかったら
僕はきっと 一生後悔する

それを自覚しているから
毎日偽りの笑顔をつくる
可能な限り 人目のつかない暗い場所で

ひと夏のおわりに

さて 夏が終わります
この1ヶ月を自分はどう生きたのか
よく考えます
早いと思った時間も 振り返ってみればそれは 有意義な 凝縮された時間だったと思えます
なので今日は長くなりそうです



実家に帰って
忙しさから逃れて
のんびり 寝て起きて 家族と喋って 笑って
落ち着いてきたら外へ出かけてみて
高校の友達に会ったり 先生に会ったり
くだらない会話をするのが 日常って感じがして好きだった

他には
映画をいろいろ借りて観たっけ
本もいっぱい読んだね
たくさん泣かされて 困ったもんだ
花火大会には行けなかったね
そういや海にも行ってないか
そういうのは誰かと一緒に行きたかったよな 小学校の頃の友達とかさ
まあ 結局誰とも会えなかったんだけど
でも 小学校の頃好きだった女の子には会いに行けた
6年ぶりに会った彼女は もう僕の知らない女性になっていたけど 手紙を渡してみた
返事はない
すこしだけ ほんのすこしだけ あのとき受験なんてしなければ
みんなと同じように地元の中学に進んでいたら なんて思ってしまった
仕方ないさ そういうもんだもん って
そうやって諦めを覚えるのも 夏が与えた試練だったのかもしれない

あとはなんだ
あ そうだ
その日はちょうどサッカー部の集まりで 焼肉を食べに行ったな
終電も始発もない深夜まで遊んで
広島駅から家まで 親友とふたりで二時間以上歩いて帰った
きつかったし なにか虚しくて ネガティヴな話も零してしてしまったけど
今となればそれも よい思い出なのかもしれない
後日先生に言われた「ハメを外せ」というのも もしかしたらこういうことなのかもね


夏休みが半分くらい終わったところで 海外旅行への支度が始まった
カナダに行く と母から聞いていた
まあいいんじゃないかな ってくらいのうすい期待で旅が始まった

飛行機に乗るのはずっと楽しみにしていた 初めてだったから
車輪が地面から離れて宙に浮く瞬間に心躍らせる
空を斜めに登っていく
やがて雲を抜け上空1万メートルへ
あと1千メートル登れば成層圏に届くはずだけど それだと飛行機が落ちてしまうのでここまでだ
窓からは雲の海を見下ろせる
きれいで ふしぎな感覚だった
空は見上げるものだと ずっと
だから 人間は空を飛べるのか とタイムスリップしてきた昔人のようなことを呟きたくもなる
着陸した瞬間も 飛行機って意外と落ちないもんだなぁ と感心してしまった
すごいよなぁ


カナダは寒いところだった
避暑地のノリで行った僕と母はひどい目にあった
あわてて現地で上着を買ったよ
あと カナダはきれいなところだった
でっかい山がたくさん連なってた
有名なロッキー山脈ってやつだ
あっちの人はカナディアンロッキーと呼ぶらしい
山々が背景に写り込むだけで映えてしまうその存在感に笑ってしまったよ

ツアーではいろんなところをまわった
主に湖が印象に残ってる
レイクルイーズ モレーンレイク と呼ばれる2つの湖はとてもきれいだった
碧いエメラルド色の水が流れていた
「あれは氷河が水に溶けて小さな粒子となり 光のプリズムの中で最も吸収されにくい青だけが反射してそういう色になっている」
などと説明するガイドさんの博識になんども拍手を送りたくなった
講義を受けているみたいでおもしろかった

他にもいろいろあって楽しかった
海外旅行なんて興味なかったけど 行ってみるもんだなと思った
ひとつ悔いが残るとすれば 僕の地理の教養が乏しかったということ
もっと真面目に勉強していれば もっと楽しかっただろうなぁってちょっと思った
また勉強してから行ってみたい


そしてカナダから帰ってきて 残りの日数はあとわずか
もう出かける予定もないしゆっくりしようと考えていた
そんな なんでもない日常に戻っていたある日
幼馴染の女の子が家に遊びにきていた
僕に会いにきたわけではなく ママ友の繋がりでついてきたという感じだった
それでもまあ 久しぶりだし せっかくだし と母に促されてふたりで話をする流れになった

幼馴染といっても何年も一緒にいたわけじゃない
保育園か幼稚園の時に一緒で それ以降はずっと別々の学校に通っていた
目の前に座る彼女もまた 僕の知らない女性になってるのだろうな と思っていたが
おもしろいことに 意外と気が合った
一匹狼というか 他者との関わりに頓着しないというか
そんなふうな雰囲気が どこか自分と似た空気を感じさせ
それはおそらく 彼女自身も感じていたんじゃないだろうか

僕はあまり他人に興味がなかったから 昔の彼女がどうだったかを知らない
だから彼女が変わったのか 自分が変わったのか どういう変化を経て今 こんなに話が合うのかがわからなかった
その日は家庭教師のバイトがあるということで途中で帰ってしまうことを知り
しかし話足りなかったので LINEを交換して二日後に一緒に出かける約束をした


二日後 約束通り彼女は来てくれた
本屋近くの喫茶店キャラメルマキアートを飲みながら話をした
やっぱり話はよく合う
人間性が似ている
本屋をまわって 食事は近くのレストランで食べて
色々話していたら時間はすぐに過ぎていった
お互いになんだか恥じらいながらの時間だったようにも思えたが あたたかいものがぽっと 湧いてきたのを胸の奥が覚えている

最後は服屋さんに行った
いつも僕が着ないような服ばかりおいてある
様々な服の中から彼女は僕に似合いそうなパーカー選び プレゼントしてくれた
こんなに高い服いいのに と思ったけど 彼女が優しく笑むものだから ありがたく受け取ることにした
大事にするよ
その時ばかりは ご飯とか奢ってあげといてよかったとすこし安堵した

帰りの市電の中では 次いつ会おうかという話をした
彼女は今も広島にいる
僕は明日東京に戻る
新幹線一本 4時間 20000円
そんなもん だけど そういう話じゃない
その距離は確実に障害となる
まあ年末には帰ってくるよって言ったけど どうだろう
彼女はその間に好きな人ができるのだろうか
僕はその間に新たな温もりに触れるのだろうか
なにがどうなれば幸せかなんて わかんないよな


ひとつ 失礼な話だが
僕は正直 彼女がタイプではなかった
可愛くないとかじゃない むしろ普通に可愛い
ただただ タイプじゃなかった
そんなふうに思っていた
でもこうやって接してみて 普通に緊張したし ドキドキしたし なにより安心した
それは決して 僕が6年間男子校だったから という理由だけではないと思う
そういうのって大事でしょう?
それに彼女は バレンタインデーにいつもチョコをくれていた
母親付き合いの義理チョコみたいなもんなんだろうと思っていたけど
思えばそれは チョコから包装から ぜんぶ手作りで
中に手書きの手紙が入っていた
短くて あたりざわりのない文章
また今度遊ぼうね っていつも いつも
また っていつだよ
最後遊んだのって幼稚園とかじゃんか
そんなの普通覚えてないよ
それなのになんで

僕は返事を一度も書いたことがなかった
本当に失礼な奴だ 最低な男だ
なんで なんでお前はさぁ
そりゃあ義理かもしれないよ
女心なんてわかんねぇよ
それでも自分で手紙書いてみてわかっただろ
書いている瞬間は その瞬間だけは宛てる相手のことを想っているって
なぁ
たとえ一瞬だけでもそうやって 想ってくれている人がいることがどれだけ幸せなことか

愚かだった自分をぶん殴りたい
臆病な背中を蹴飛ばしたい
僕はもう一度彼女に会いたい
会ってちゃんと確かめたい
それで 彼女に謝りたい
待たせてしまった返事を携えて 愛されたいならそう言いたい
それにはもうすこし時間がいるが
でも 多少盲目になってしまっても構わないなら






高校生の頃は「広島で生まれて、そのまま広島で死ぬ」そんなのは嫌だ と思っていたけど
いざ離れてみると こんなにも恋しいし寂しい

今迄は
広島を離れるために受験勉強をしていたし
自分のためだけに頑張っていた
それは間違ってなかったと思う
自分で決めたのだから

でも今度は
胸を張って広島に帰るために学びたいし
想ってくれる誰かのためにも頑張りたい
そう思うようになってきた
これもきっと間違ってない



人間 煮詰まると 手の届く範囲に答えを見出した気になっちまう
そうなれば人間 それ以上の進歩はない
今がそんな状態ならば 一歩引いて俯瞰する冷静さを取り戻さなければならない
ただ今 確かなものがひとつだけあって
それを語るのに 僕はこの夏に観た映画をなんども思い出す

主人公の胸には空洞があいていて
その胸の空洞が温かい心で埋まっていくシーン
僕はそれを観ていて 羨ましいと思った
自分の胸にもおんなじ空洞が
でもそれを埋めてくれるなにかが自分の手の中にはなくて 悲しくなった
でも今なら なんとなくわかる
胸のあたりがほんのりとあたたかい
暗くて冷たい虚無と闘うためのぬくみを いろんな人から受け取ったからだ
これは間違いのない感覚で 信じれるものだと思う
それならば初心を踏み外すことなく歩いて行けるのではないだろうか


こんなことを書いていると 勝手に涙が出てきた
こういうのはよくない
感傷に浸って書くと時化た駄文になる
でも新幹線の隣の席に スーツを着たサラリーマンが座っていて
他人から隠そうと左手で顔を覆うと余計に 止まらなくなる
弁当箱にならんだ 具のないおむすびの味が いつもより濃いような気もする
結局 駅弁のおしぼりで拭ったが
鼻水がいっぱい出て すこし恥ずかしい思いをした
あぁ ほんとに長くなっちゃったな


楽しいことも残念なことも嬉しいことも寂しいことも
そりゃいろいろあったけど
そのすべてに悔いはない
平成最後の夏に相応しい 納得のいく夏だった
そう思う

もう明日からは切り替えないといけない
頑張らないといけない
でも広島のお陰で もうちょっとだけ頑張れるよ
だから
まだ物語はつづく

予報

明日 東京へ行きます

明日からまた 非日常が始まります

僕は 鮮やかな現実と向き合わなければなりません

それは辛いし 苦しいです

しかし僕は それに抗うだけの力を得ました

ぜんぶ 周りのお陰です

感謝しても仕切れない

本当によかった


明日は曇り時々雨です

ですが 明日から日付が進みます

溜め込んだものは新幹線の中

遠退く故郷を想う 明日の自分に託します

帯状疱疹

すこし前から帯状疱疹というやつが左大腿部に出てしまっていて 気怠い日常が続いている
原因がなんだったのかはわからない
微量の電流が肌を伝う感覚とあかくただれた皮膚がなんとも憂鬱

ストレスも関係しているらしいので なるべく考えない生活を続けていた
しばらく友達と遊びに出かけたりもしたがそれも書けないでいるのが残念

明日からは家族で旅行に行く
楽しみなのに
だるい と身体がそう訴えてくるのが悲しい
錠剤と塗り薬を携えて空を飛ぶ
よい旅を

走馬灯

ちょっと今日はよくわからないことを口走る
その自信がある
いまさっきおそろしいことがあって
自分でも混乱しながら言葉をならべてる
ぐちゃぐちゃに散逸した語彙をふるえる手で拾いながら
ひとつひとつ


それで
なにから説明したらいいんだろうか

そう
音楽を聴いていた
できるだけ暗い部屋のなかで

その音楽というのは
僕がすこし前から知っていたアーティストの新曲で
あまりにも歪で 奇怪な曲だった
どのジャンルにも属さないような不思議な曲だった
それを暗い部屋で聴く
ひとりで聴く

そのあいだ そのあと ずっと
催眠にかかったような 不思議な気分だった
おそろしさ 間違いなくこれは“畏怖”にちかい感情
まるで 神に触れてしまったかのような
禁忌を侵してしまったかのような

今はすこし落ち着いて言葉に現わせるが
直後はほんとうに言葉がでてこなくて
わからなさだけが胸に充満して
突然夜道を走り抜けたくなった

くらくらする
脳を直接鈍器でなぐられたような
その凶器のなまえはきっと ハイセンス
とてつもなく莫大な才能に揺らされる
僕が音楽家を志していたならば
間違いなく楽器をへし折り 身を投げていた

そうでなくてもみえる 走馬灯
きっとこれがそうなんだと思う
一度 二度 いや何度だろう
聴いている最中 何回しんだ? 何回ころされた?
息を忘れる
自分がなくなっていく
肋骨をなぞり心臓をさがす

あぁ あふれる
これは誇張だろうか
あまりにもへんな話だろうか
ぼくにもわからない
寝る前にもう一度聴く
こわいけど たしかめたくなる

おやすみ
ゆめのなかで

先生と後輩

高校の先生に挨拶をしに行った
ちょっと怖かったので友達と行った
まあでも顔を合わせてみればどうってことはない
いつも通りだ
けどちょっと怒られた
進路の関係では他方に迷惑をかけた 心配をかけた
申し訳ないな という気持ちが顔に出てしまっていたかな
ああ 卒業以来挨拶していなかった
それはだめだな


そのあとはサッカー部の後輩とご飯
奢りという概念は好きじゃないのだけど 今日みたいな日はそれも悪くないと思ったので奢った
僕はあまり 先輩 と呼ばれるのが好きじゃなかったから今でもニックネームで呼んでもらってる

受験がこわいって言ってた
わかる
僕も去年そっち側に立っていたんだ
わかるよ

みんな報われてほしいけど
そうはいかないし
本人次第運次第だし
応援するしかない