まどろみの彼女

夢を見た


何処かの道を足早に歩いている

深い緑の街路樹が並ぶ 道路脇の歩道のようだ

可愛らしい制服姿の女の子が隣を歩く

知らない子だった

綺麗なショートカットの黒髪
無垢な笑顔が愛らしい少女だった

何故か彼女は僕の名前を呼ぶ

どうして名前を知ってるの? と聞くと

友達に教えてもらった と言う

その友達の名前は僕も知っていた

どうして教えてもらったの? と聞くと

彼女は口角をつり上げ ニタニタと僕の顔を見返すばかり

教えてはくれなさそうだ


彼女は僕の疑問に目もくれず 無邪気に話しかけてくる

僕のことを根掘り葉掘りと聞いてくる

時々いじらしい表情を見せ

ちっぽけで純粋な悪意に依った嘘をついて

僕が騙される様をきゃっきゃっと楽しそうに笑う

内容が薄れてしまって思い出せないのが非常に残念


彼女は何かに急かされるかのように歩くペースを上げる

僕も彼女の歩みに合わせる

しかし

いつの間にか 彼女の姿を見失う

気づけばひとりぼっち 古びたバス停に佇んでいた

彼女の声はまだ聞こえている

僕を取り巻く空気に混ざって 彼女の声がぼんやりと耳に届く

僕は一人でバスに乗り 揺られながら彼女の声と対話する

彼女のはにかんだ笑い声が遠くに聞こえる

既に彼女の顔はうっすらとしか思い出せなくなっていた

最後 僕が何か話しかけている半ば

夢は途切れた



あぁ こういうのはタチが悪い

本当にタチが悪い


抱いた二の腕の中の空っぽが不快感を催して
何かを求めるかのように布団にしがみつく

顔を埋めたまま 彼女を思い出す

顔も声も ハッキリとは思い出せない

淡く淡く あの無垢な面影が脳裏をよぎる

泣きたくなる

もう泣いてた

僅か数分の記憶の中の彼女

まどろみの中に今なお薄れ消えゆく彼女

誰とも知らぬ彼女の残像がぼんやりと揺れる

ただただ喪失感募る

名前 聞いておけばよかったと後悔


憂鬱な一日になった

深く考えるのは明日にしよう

もう眠りにつこう

願わくばまた夢に出てきて

無邪気な笑顔で迎えてはくれないだろうか