噓憑き優良生徒 1

噓をつくのが得意

自分にも 他人にも
いとも簡単に 息をするように 噓をつく
昔からの難癖である
今更正せない 正そうとも思わない

しかし 僕は 真面目な噓つき
悪しき思惑に依って 人を傷つけるような噓はつかない
かといって 人を笑わせる類の噓はつけない
全部 自分を守る為の 噓
内面を覗かれたくないが為の 噓
噓の殻に閉じ篭ったまま 今も 眠っている


幼い頃から 大人に叱られるのが怖かった
親に 先生に 叱られた記憶が トラウマのようにへばりつく
幼い自分は それに堪えることが出来るほど 強くはなかった
彼は 本能的に思考した

叱られたくない 怖い
なんで叱られたの
どうしたら叱られないの

原因としては 悪いことをしたから
悪いことはいけない 真面目な彼はそれを知っている
けど 叱られたそれが 悪いことだなんて 知らなかった

気附く
悪いことをしたと 正直に言ったから 叱られた

気附いてしまった
正直者だったから 叱られた

そうだ
噓で隠せば 叱られない


子供は 叱られて それを悪いことだと認知し 以後 それをしないようにと 成長する
彼も 成長した
ただ
他人の感情に敏感だった故か
成長のベクトルが ほんの少し ズレた


それからというもの 今に至るまで
僕は ずっと 優良生徒
優等生とは別物
勉強はそこそこ 素行は満点
模範的な生徒だ

そう 噓の仮面を被った 優良生徒
無邪気な笑顔を振りまく
太宰の言葉を借りるのならば 道化師
ひどくお似合い
ピエロは微笑う


明くる年 始業式当日
唐突だった
安寧が崩れる予感に 撫でられる

クラスが決まり 教室へ
教室内は見た顔ばかり
和気藹々と 賑わっている
担任と思われる男性が 教室へ入ってくる
着席の合図がかかり 皆 席につく
初めて見る先生は自己紹介を始める

途中 目が合う
僕は優良生徒
いつも通り 目は逸らさない
その予定だった
目を逸らすことで 噓はバレる 知ってる
しかし 不意に寒気を感じた
反射的に目を背ける

透かされている気がした 仮面を
視られている気がした 素顔を

肺腑を剔られる恐怖を感じた


後に発覚する
先生は大学で心理学を専攻していた という事実
予感は良くも悪くも的中した
先生は 心の プロだった

仮面は 透けて見えるだろう
噓は 容易く見抜かれているだろう
だが かく言う自分も 噓を友として生きてきた
心の プロだ
平気で嘘をつく
噓が見抜かれてると知りながら 噓をつく


噓に憑かれた 優良生徒
それが僕

先生と 僕と
噓で繋がれた不思議な関係
本音と建前 全てが暗黙の了解
異様な 上辺だけの 安定した 関係

続いていくのだろう
これからも これからも