色喰い

彼には他人の色を視る癖があった
何時も街ですれ違う人間を観察しながら北叟笑む
可笑しくて堪らない
そんな顔付きで街を歩く
通行人は奇人を見るような目で彼を見る
彼はそれも知っている
視えてしまうのだから
頭上を游泳する靄の団塊
頭上に渦巻く様々な色

突然 彼は大声で笑い転げる
彼の大好物を見つけたのだ
噓だ
魅麗で醜悪な その色
色から見下ろす人間
化粧の濃い女性
電話に夢中で彼には気付いていない
会話相手は元カレ
恋愛と金銭絡み とここまで彼には透けて視えるだろう
彼は微笑いながら女性に近づく
女性は漸く気付く 彼の存在 そしてその異質さに
しかしもう既に手遅れ
彼は左手で女性の頭上の色を仰ぐ様に掻っ攫った
女性の頭上は空っぽ
まるで天から吊られた糸が切られたかのように
彼女はその場に崩れ堕ちた
辺りは騒然とする
不可解な状況の理解に追われる民衆
意思を失ったマリオネット
破顔う色喰い
彼は我知らずとむしゃむしゃ色を屠りながら軽快にステップ
人知れずその場を去った

彼は色を喰う
主食らしい
彼にとっては 只の色
尤も僕等は其れを心と呼んでいるのだけど