夢の濫觴

はじめまして の挨拶を交わしたのは五歳の時

僕はサッカー選手という夢に出会った

日本代表になってW杯に出ることを夢見た

それを親や先生 友達に吹聴した

みんな褒めてくれた 讃えてくれた

みんなはそんなこともう忘れているだろうけど 僕だけは覚えてる


でも いつのまにか

夢は さよなら も言わずに僕の目の前から姿を消した




夢の消失に気付いたのは中学生になってから
自分は進学した中学のサッカー部に入った
割と強い学校だったから巧いやつらが集まっていた
それでもまだ自分の方が巧いと自負していた
その愚かな自信のお陰で中学の頃はずっとレギュラーだった

でも年を経る度 徐々に気付いて来る
自分はそんなに巧くない
中学の部活なんてお飯事だ
世の中にはジュニアユースというプロチームの下部組織があって
その上にユースという組織があって
その中で闘ってる奴らのうちの更に一握りがプロになる
その他にも強いクラブチームがあってトレセンというサッカー選手強化プログラムがあって
僕はそんなことすら知らずに
井の中の蛙だった


トレセン概要


高校に進級して それは目に見える形で現れた
クラブチーム上がりから4人部活に入ってきた
そいつら めちゃくちゃ巧かった
1人はサンフレッチェジュニアユースの元キャプテンでトレセンの最高位ナショナルトレセンという段階に選ばれていた
つまり日本の同年代では指折りのトップクラス
そいつはユースへの誘いがあったにも関わらず高校の部活に入った


自信は過信だったことを知る
私の巧さは勘違い
魔法は解け
僕は高校時代レギュラーになることは一度も無かった



夢はいつのまにか終わる

気付かぬうちに終わる

才能を憎んでも 環境を疎んでも

気付いた頃にはもう終わってる

俺は諦めるだなんて ギブアップだなんて 一言も言ってない

意志も 願望も 追いかける脚も 確かに此処に在るのに

それでも遠退く夢

何故だ と叫んでも届かぬ

私は脚を止め 膝を折り地べたに座り込んだ

その時 夢が一つ完全に終わった


これが生涯付き合っていくことになる夢の濫觴