今日は綺麗だった 明日は雨だ

今日は人が多い

台風21号
そいつの影響で 地元野球チームの試合が中止になったみたい
向かいのホームにも こちらのホームにも
残念そうな顔をした人が詰まってる
駅のアナウンスが場内に響く
10分遅れらしい
各々文句を言いながら 帰りの電車を待つ



野球 か
そういえば
スポーツ観戦 というものが理解できない時期があったね

なんで彼らは
選手の一挙一動に 一喜一憂してるの
疲れないの

なんで彼らは
わざわざ足を運んで観るの
テレビでいいじゃない

そんな風に


考え方が変わったのは数年前
地元サッカーチームの 優勝がかかった試合
スタジアムは満員
僕はフィールドの中にいた
あ いや 選手じゃない
ボールボーイをしていた
ボールを抱えて 脇に立ってた
選手と同じ目線
プロの本気 というものを前に
既に魅せられていた

選手が本気でぶつかり合う
なんて激しいスポーツだ
今まで自分達がやってきたものはなんだ
まるでお飯事じゃないか

圧倒され足が竦む


唖然として 意識がふわふわ ふわふわ
そんな時だった
歓声が上がる

誰かがシュートを打ち
ディフェンダーに弾かれ
そのこぼれ球だった

右脚でしっかりボールを捉え
ダイレクトで鋭いシュートを放つ
ボールはディフェンスの間を縫い キーパーの手を避け
ゴールネットに突き刺さる

最高潮に達した歓声が
振動となり 響き
スタジアムを揺らす

震えた
身体中が
内側からゾワッと
そんな風に


結局それが決勝点となり 優勝が決まった
歓喜に沸き
また揺れる
闘いの末に 選手が優勝を掲げる光景は 綺麗だった



そうだな
あの時 変わったな
やっぱり心に残るものは残るな
なんて考えながら電車の中
中止になって人気の無い
寂しそうな野球スタジアムが遠のいていくのを目で追っている



今日は綺麗だった


ぽつり 呟く

意図せぬ言葉だった


明日は雨だ


刹那
自分の不意の言葉に惑う間も与えず
他人の言葉が耳に入ってきた


不意の言葉と他人の言葉とを反芻し
妙な快感を覚えた


今日は綺麗だった 明日は雨だ


なんとまあ 意味不明な
しかしまた 分かるような


今日は綺麗だった

これは回想と現在とが溷濁してしまったのか

明日は雨だ

これは単なる他人同士の与太話だろうか


何の因果関係も無い2つの言葉が
うまい具合に嵌りすぎて 心地よい
因果関係があるようにさえ思えてしまう



不思議で 趣白い



今日は綺麗だった 明日は雨だ