5年前の夜空

五年前の夜空
零れそうな星を掬って
ねぇ 綺麗でしょ?って
君は僕に見せびらかす

嬉しそうな笑み
掌に包まれる輝き
途切れ途切れの記憶
もうすぐ夢が終着駅に着く時間

あぁ おわり
ぜんぶなくなった

残ったのは

脳裏に染み付いた満天の夜空だけ




あれから5年の月日が経った
変わったこと 色々あった
でも相変わらず僕の背丈は変わらない
今日も何か忘れ物をしている気がする
思い出せなくて左の顳顬がむずむずする

何故か
あの日の夜空を未だ夢の中で繰り返している

それは知ってる
でもきっと意味なんてない



本日は快晴
夜になって星が街を照らす
流れ星が僕の頭上を翔び交う
僕は柄にもなく興奮してしまった
それを嘲るように笑う三日月
タニタしやがってと少し毒突く


1番大きな星を指差す
あの星が綺麗だ
僕はそう言った
そう言った後
自分の言葉に不思議と既視感を覚えた

よく眼を凝らすと指差した星が揺れているように見える
揺れている 間違いなく
確信とともにその崩れそうな星を掬ってみたいという欲が出た
我ながら良いアイデアだとケラケラ笑う
僕は空に向かって走り始める
蹴って蹴って駆け上がる

もうすぐ辿り着く
その刹那
手を伸ばした瞬間
揺れる星がポロリと落っこちた
真っ黒な空から浮いて 崩れ落ちて行く星屑


驚きと失念とが混ざった声を上げた僕の目線の先
彼女は立っていた
星屑を両手で掬って
ねぇ 綺麗でしょ?って
僕に見せびらかす

何か思い出した 気がする
写真のように切り取られた記憶が 目の前を通り過ぎて消えた

ぼうっと時間に身を任せていた時
不意に彼女の両手から星屑が1つ 零れ落ちた
僕らはその行方を追う
地上に燈が灯った
きれいきれい と彼女がはしゃぐ
明るくて暖かくて
心の芯から温もる


あぁ見覚えがある

あれは 僕らの街だ

僕らの街が焼けている

思い出した 全部 全部

ヨゾ 君は

彼女は哀しそうに微笑んで消えていった



僕は

僕らは

未だ終わらぬ夢の中

温みに身を委ね眠りにつく

遠のく意識に見たのは

光輝く満天の夜空だった