始発列車

山を越え谷を跨ぎ 辿り着いたこの場所

背中には歪みきった地平線と死んでいった季節の数々

わたしは偶に振り返るのだけど あの日乗った始発列車はゆっくりと前へ


車内はわたしひとり

今日も移りゆく景色をのんびりと眺めている

空っぽの空間はどうにも落ち着かない

先頭から最後尾までいつも右往左往



ひとりぼっち

でも退屈することはなかった

誰もいない運転室にペンキ一式 音の鳴る玩具 紙と鉛筆が落ちていた

わたしはペンキで車内を彩ってやった

天井に青を 床に緑をぶちまけた


音の鳴る玩具で騒ぎ立てる

いろんな音が出て趣白い

綺麗な音を見つけると一日中それを鳴らし続ける


遊び疲れて眠たくなる

私は鉛筆を手に紙に落書きを残す

記憶が無くなってしまう前にと


夜がやってきて来て 眠りに誘われる

座席に腰掛け車窓に靠れる

外を眺めて氣付く

あれれ 列車がそんなに進んでない

あぁ 残念

窓に映るペンキ塗れのわたしの顔

無垢で純粋な幼児の面影

満足そうに睡魔に溶けていく




電車は緩々と進む

確かに進んでいる

わたしひとり乗せて

死んでいく季節から逃げるように

でも過去が追ってこれるようゆっくりと

この列車は何処へ向かっている

このレールは何処に繋がっている

まだ 終着駅は遠い

まだ 明日の朝を待っている