創作

蝉の聲と骸

"夏の風物詩"のように云われる蝉は、八月の戸口でもまだ、意気揚々と鳴いている。窓辺の網戸に掴まって、奥の樹木で待つ仲間たちと無線通信を交わしている。 ミーンミンミンミンと決まりきったリズムで、何度も同じ言葉を発して、つまらなくはないのか?と問…

バカと朝食

僕は頭が悪い 毎朝出される朝食を食べ逃す父は頭が悪い 毎朝出されるピーマンを食べ残す母は頭が悪い 毎朝同じ料理を作るなにより頭が悪いのが犬のジョンで 毎朝僕らの残飯を喜んで食べる頭の悪い僕ら家族は 汚く食べ漁るジョンを見て バカだ と指をさし笑っ…

僕等は主人公

幼い頃、僕等は無敵の主人公だった。誰もが世界の中心にいた。 ちっぽけな世界を我儘に謳歌していた。 怖いもの知らずで、小さな膝小僧には生傷がいつも絶えない。 夢を大声で叫んで、叶うと確信を抱いてた。自覚なしに過ぎていく時間。 離れ離れになってい…

明日の記憶

あの日見た景色を つまらない風に歌うんだ あの日見たままの夢を また忘れていくよ また忘れていくよ思い出したのは赤の季節 最中 僕と君とで世界を廻る 空は変わらず青いまま 綺麗な夢の中で歌っていた都合のいい部屋の隅で 独りぼっちの世界侵略 悪の組織…

何色の空

見上げると曇天一面の灰西は茜色に灼けて赤東は晴天の名残る青遠方には影となる黒手前には光沢のある白表面には薄い街明かりが映り込みあの雲の奥には藍の夜空が待っているあれは何色の空だ?

暗雲

まるで世界を覆う黒い天井 風は荒ぶり空は騒めきを隠せない 大地が揺らぐのを覚え 動物達は穴蔵に身を潜めるやがて雨が降る その為の暗雲 異界の毒素を吸い込んだ塊 黒い雨を降らす或る人は雨水を呑む 渇きに悶える苦しみから解放されるため 或る人は無形の…

イナズマ

桜は咲いたり散ったり好き勝手に振舞って、始まりの標べとするには些か不適当ではあるが、未だ取り残された花弁を吹き飛ばすための嵐が近づいてきているのもまた確か。 遠くで春を告げる鐘は鳴らない。 何を合図とするでもなくやってくる。 強いて言うならば…