忘れられた記憶

夜 終に眠りの深い処へと落ちてゆきそうな頃
ふと気付く
忘れていた記憶が一斉に押し寄せて来る
その波は眠気という奴を払い除けて 脳へ迅速に伝播する
何かに怯えて寒気と焦燥
冷たい汗が背筋をなぞる

目覚ましをセットして置いてあったケータイを手に取る
指紋認証でロックを解除 できない
汗ばんでできない
落ち着いてパスワードを入力しロック解除
すぐさまメモ帳を開く


ずっと忘れていた
なんで忘れていた

メモ帳が 溜め込んだ記憶が
止まった時の中だ
最終更新は9月
全部 消えている
自らの愚かさを呪った
ベッドの上で狼狽えた
もうダメだ と思った時
メモが一つ増えた
もう一つ増えた
また一つ と
どんどん戻っていく 追加されていく
これもまたiCloud上に保存していた為か
ケータイの修理による代償は無かった
深い安堵と 何処からか湧いてきた変な疲れ


元通りになったメモを一つずつ見ていく
あぁ こんなん書いたなって
次々に記憶を取り戻す
よかった
こんな忘れ物をしていたとは思わなかった
ずっと溜め込んだ記憶が消えていたなんて
無意識は怖い
気付かないのが怖い
急に意識の中に入れてしまった時の反動が怖い
とりあえずはよかった
忘れられていた記憶を辿りながら眠りに就こう